2011年10月30日

もはやヒポクラテスではいられない・・・・・。

『医学の父』、
『医聖』、
『疫学の祖』などと呼ばれる
紀元前4~5世紀、古代ギリシアの医師、
ヒポクラテス。

我々医師は・・・・・

『ヒポクラテスの誓い』

・・・・・という
医師の職業倫理について書かれた宣誓文を学生時代に学びます。

ヒポクラテスの誓い(The Hippocratic Oath)

医神アポロン、
アスクレピオス、
ヒギエイア、
パナケイア
およびすべての男神と女神に誓う、
私の能力と判断にしたがってこの誓いと約束を守ることを。

この術を私に教えた人をわが親のごとく敬い、
わが財を分かって、
その必要あるとき助ける。

その子孫を私自身の兄弟のごとくみて、
彼らが学ぶことを欲すれば報酬なしにこの術を教える。

そして書きものや講義その他あらゆる方法で私の持つ医術の知識を
わが息子、わが師の息子、
また医の規則にもとずき約束と誓いで結ばれている弟子どもに分かち与え、
それ以外の誰にも与えない。

● 私は能力と判断の限り患者に利益すると思う養生法をとり、
  悪くて有害と知る方法を決してとらない。
● 頼まれても死に導くような薬を与えない。
  それを覚らせることもしない。
  同様に婦人を流産に導く道具を与えない。
● 純粋と神聖をもってわが生涯を貫き、わが術を行う。
● 結石を切りだすことは神かけてしない。
  それを業とするものに委せる。
● いかなる患家を訪れるときもそれはただ病者を利益するためであり、
  あらゆる勝手な戯れや堕落の行いを避ける。
  女と男、自由人と奴隷のちがいを考慮しない。
● 医に関すると否とにかかわらず他人の生活について秘密を守る。
● この誓いを守りつづける限り、
  私は、いつも医術の実施を楽しみつつ生きてすべての人から
  尊敬されるであろう。
  もしこの誓いを破るならばその反対の運命をたまわりたい。



この宣誓分は、
金銭的報酬だけを目的に医療を施したり医学を教えたりすることを戒め、
人命を尊重し、
患者のための医療を施すこと、
患者等の秘密を守る義務など、
医師の倫理・任務などについて述べられています。

ただ、
紀元前4~5世紀の宣誓文であるが故に
現代医学の常識と少々異なっていたり、
宣誓の対象が患者さんではなくてギリシャ神話の神々であったりと
少々時代や文化と合わない点もあって、
1948年、
ヒポクラテスの誓いを現代的に改定・系統化・定式化し・・・・・

『ジュネーブ宣言』

・・・・・が世界医師会総会にて採択されました。

ジュネーブ宣言
(2006年 改訂版)

医療専門職の一員としての任を得るにあたり、

私は、人類への貢献に自らの人生を捧げることを厳粛に誓う。
私は、私の恩師たちへ、彼らが当然受くべき尊敬と感謝の念を捧げる。
私は、良心と尊厳とをもって、自らの職務を実践する。
私の患者の健康を、私の第一の関心事項とする。
私は、たとえ患者が亡くなった後であろうと、
信頼され打ち明けられた秘密を尊重する。
私は、全身全霊をかけて、医療専門職の名誉と高貴なる伝統を堅持する。
私の同僚たちを、私の兄弟姉妹とする。
私は、年齢、疾患や障害、信条、民族的起源、性別、国籍、所属政治団体、人種、
性的指向、社会的地位、その他いかなる他の要因の斟酌であっても、
私の職務と私の患者との間に干渉することを許さない。
私は、人命を最大限尊重し続ける。
私は、たとえ脅迫の下であっても、人権や市民の自由を侵害するために
私の医学的知識を使用しない。
私は、自由意思のもと私の名誉をかけて、厳粛にこれらのことを誓約する。


さて、そんな中、
日本では・・・・・

『もはやヒポクラテスではいられない』
21世紀 新医師宣言プロジェクト

公式サイト http://www.ishisengen.net/
Facebook http://www.facebook.com/mohahipofb?sk=app_6009294086

・・・・・という運動が始まっているようです。

(略して「もはヒポ」)

発起人は、
東京医療センター教育研修部臨床研修科医長・
臨床疫学研究室長をなさっておられる
尾藤 誠司先生。

『ヒポクラテスではない、等身大の医師宣言を皆で作ろう』

『「ヒポクラテスの誓い」に変わる「医師の誓い」を、
 有志で作ろう』

『本プロジェクトの基本となるコンセプトは、
 聖人としての偶像を医師が自ら破壊し、
 クライアントと誠実に付き合い続ける専門職としての医師像を、
 個人のレベルで宣言し、
 そのフォロワーを集める試みです。』

『現在の医療に必要なのは
 「患者の為の医療」でもなく「患者の立場に立った医療」でもない、。
 私は、今後の医療が目指す景色は「患者とともに考える」医療だと考えます。』

このプロジェクトは
文部科学省の公的なプロジェクトで、
公式サイト、
Twitter、
Ustream、
Facebookなど、オープンな場で議論しながら
現代の日本の新しい『患者-医療者関係』を構築していこうという
実験的な試みのようです。

実に興味深いプロジェクトで・・・・・

『私もぜひ参加させていただこう・・・・・!!』

・・・・・と思ったら、
既に議論は終わってしまっていて・・・・・

『新医師宣言 Ver.1.0』

・・・・・が
公式HP上で公開されていました。

その内容とは・・・・・
“もはやヒポクラテスではいられない” 21世紀 新医師宣言プロジェクト

私の新医師宣言

私は、毎日の仕事の中で、
あきらめそうになったり、
「まあいいか」と妥協しそうになったり、
望ましくない誘惑や圧力に流されそうになったり、
患者さんに寄り添う心の余裕がなくなりそうになったりすることを
否定しません。

そんなときには、私は以下の宣言文に立ち返ります。
そして、医師として患者さんや職場の仲間とともに悩みながら、
でもへこたれずに歩んでいくことを誓います。

1. 私は、患者さんについて
  まだわからなければならないことがあるという前提に立ち、
  患者さんの気持ちや苦しみを想像し、理解する努力をします。
  一方、自分の言葉が意図するとおりに、
  患者さんに伝わらないことも認識し、
  お互いが分かり合うための工夫を怠りません。
2. 私は、診療方針を患者さんと決める際に、
  自分の方針を押し付けすぎていないか、
  逆に、患者さんに選択を丸投げしていないか振り返り、
  患者さんとともに確認します。
3. 私は、医療行為が常に患者さんを害しうることを忘れません。
  もし不幸にして患者さんに重い副作用などが発生した際、
  患者さん本人や家族の悲しみに対し誠実に向き合い続けます。
4. 私は、不適切もしくは過剰な薬の処方や検査が
  患者さんに行われていないか常に注意を払います。
  その状況に気付いた時には、患者さんと相談し、
  よりよい方法をともに考えます。
5. 私は、患者さんの健康の維持や回復、症状の緩和を支援するとともに、
  患者さんの生命が終わっていく過程にも積極的にかかわります。
6. 私は、どんな状況にあっても
  患者さんが希望を持つことを最大限尊重します。
  医療だけでは患者さんの問題を解決できないような状況のときにも、
  患者さんの相談者でありつづけます。
7. 私は、自らの心に宿る敵は、自己保身、経営優先の効率主義、
  外部からの利益供与であることを認識します。
  そして、ときに自らの医学的好奇心すらも
  患者さんの利益に反する要因となることを心に留めます。
8. 私は、可能なかぎり患者さんの希望を聴いた上で、
  自分にできることと、できないことを伝えます。
  時には、施設内外を問わず自分よりうまくできる人に
  協力を依頼し連携します。
9. 私は、患者さんや職場の同僚に助けられたとき、
  「ありがとう」と声に出して言います。
  また、心の折れそうな同僚が身近にいたら「どうしたの?」と声をかけ、
  話を聴きます。
10. 私は、文献からは医学に関する知識を、
   先人からは生きた技術を、
   同僚や他職種の仲間からは臨床の知恵を、
   後輩からはあきらめかけていた情熱と気づきを、
   そして患者さんからは、自分が、医師としてどうあり、
   何をすべきかということについてのすべてを学び続けます。
11. 私は、自分の誤りに気付いてくれる人を大切にし、
   自分への批判に積極的に耳を傾けます。
   同時に、同僚や上司の疑問に感じる態度や行為に対しては、
   それを指摘するようにします。
12. 私は、医療が公共財であり社会的共通資本であるということを前提に、
   専門職の観点からは理不尽だと感じる要求に対し、
   目を背けず向き合います。


ちょっと出遅れましたが、
今後は私もこのプロジェクトに参加させていただこうと思っています。


Posted by ゲゲゲのしげ爺 at 19:00│Comments(2)
この記事へのコメント
重田先生

 お元気さまです。

 素晴らしいと思います。

 尾藤先生は、ご自分の言葉で語られています。

 本音で語られているのが、伝わって来ます。

 勇気を感じます。

 私は薬剤師ですが、自分なりの薬剤師宣言を作ってみます。
Posted by アルコンテ at 2011年10月31日 23:49
アルコンテさん、こんばんは。

薬剤師宣言、
私も楽しみにしております・・・・・!!
Posted by ゲゲゲのしげ爺ゲゲゲのしげ爺 at 2011年10月31日 23:52
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